特定非営利活動法人 ニューマン理論研究・実践・研究会

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2017年度 第11回ニューズレター

2017年度 第11回ニューズレター

はじめに

 NPO法人ニューマン理論・研究・実践研究会のホームページをご覧になっている皆様こんにちは。今回は2017年10月29日に首都大学東京荒川キャンパスで開催された第11回対話集会の模様をご紹介します。
 今年度の対話集会は台風22号の接近による風雨のなかで開催されましたが、全国からニューマン理論に導かれたケアに関心を持つ看護師(訪問看護師)、大学院生など44名の方が参加してくださいました。
 まず鈴木貴美教育理事から開会のあいさつがありました。参加してくださった皆様への歓迎と台風のエネルギーに負けない対話集会にしていきましょうという言葉がありました。

2017年度 ニューマン理論・研究・実践研究会 
第11回 対話集会

日時:2017年10月29日(日)10時~15時
場所:首都大学東京荒川キャンパス

対話1
身体の動きに制限がある在宅療養中のがん患者とその配偶者と訪問看護師のパートナーシップによる対話を通した寄り添いのケア

発表者 石黒 絵美子さん(横浜市瀬谷区医師会訪問看護ステーション)
ファシリテーター 諸田 直実さん(武蔵野大学看護学部)

 石黒さんの発表は、修士課程における実践的看護研究の報告でした。石黒さんは、訪問看護師であり研究者として、腹水によって急激に体の自由を奪われる体験をしていた肝臓がんのターミナル期にある70歳代男性Aさんとその妻とパートナーシップを組みました。ニューマン理論にもとづいた対話は、在宅療養中のAさんへの看護ケアのひとつとしてスタートしました。
 1回目の面談では、肝炎および肝がん治療を必要としながらも、長年の間、Aさんの病状は安定し、Aさん夫婦が家庭では互いを助け合い、地域では周辺住民同士をつなぐ役割を担いながら、楽しく生活してきたライフパターンが豊かに開示しました。そして、今現在は腹水により体のバランス感覚を失って思うようにならないことの連続であるという苦悩が語られました。
 2回目の面談では、Aさん夫婦は地域と相互交流するなかに自分たちらしさを見出し、「身体の動きを失ったからこそ、より一層他者への思いが膨らんでいる」のだという気づきを得て、それを言葉にしたそうです。2回目の面談後まもなくAさんは逝去されましたが、臨終の場に立ち会った石黒さんは、Aさん夫婦ならびに地域住民との共鳴を体験し、さらに石黒さん自身が自己と向き合う勇気を得たことが報告されました。
 発表後の会場からは、Aさん夫婦がパターン認識に至る過程と、石黒さん自身が自己洞察を深めていった過程への質問から対話が拡がっていきました。ケアリングパートナーシップのケアに関する関心の高さがうかがえました。遠藤先生からは、ニューマン理論においては、ニューマンがALSであった母親との相互作用の体験を基に、空間、時間、動き、意識(その人全体)という4つの概念が非常に重要であること、人間は動きを失い、時間的にまた空間的に制限されとしても、すばらしいケアによって、意識が拡張するという説明がありました。また、パターン認識は「今だ」というように、必ずしも確定できない場合があること、いつの間にか患者・家族が変わっているなどのことはしばしばあること、そして意識が拡張する時期は必ずあるが、その予測は不可能なのだという話がありました。

対話2
長期的悲嘆体験を分かち合えなかった男性との対話-互いの変化を喜び合うことの意味-

発表者 中林 誠さん(神奈川工科大学看護学部)
ファシリテーター 児玉 美由紀さん(北里大学病院)

 中林さんの発表は、修士論文であり、ニューマンの健康の理論を枠組みとした質的研究のケーススタディの報告でした。目的は、がんによる配偶者の死後、長年悲嘆体験を表出できないでいた男性に、ニューマン理論に基づく対話の方法を学んだ研究者が関わることで研究参加者に生じた変化の過程を明らかにするというものでした。
 中林さんは、20年前にがんで妻を亡くした60歳男性Aさんとパートナーシップを組み、研究をスタートしました。
 対話は4回行われ、1回目では、Aさんは妻の死後にさまざまな活動に参加し、人間関係を広げていったことが語られました。2回目の対話では妻の死や自分の心境を子供と分かち合えていないこと、3回目では子供をはじめ他者と深くかかわることを避けていた自分、空虚のまま人とのかかわりを拡げていた自分への気づきが語られました。そして4回目になって、今でも妻と人生を歩んでいることが認識でき、妻への思いを娘と分かち合えるように変化したということが報告されました。
 発表後の会場からは、「なぜ妻の死後20年もたっているAさんとのパートナーシップのもとで、この研究に取り組もうと考えたのか?」、「中林さんに生じた変化とは?」という質問がありました。中林さんが、Aさんとの出会いからAさんとの相互作用によって自己理解がどのように深まっていったかを誠実に、率直に披露してくれたことで、Aさんとのパートナーシップの過程への理解がより深まりました。また、がんで配偶者を亡くした人々へのケアの重要性、この研究を臨床で活かすことの意義などに参加者との対話が発展し、会場の盛り上がりを感じました。参加者はニューマン理論に導かれたケアの醍醐味とその奥深さを体験する機会となったのでした。

対話3
苦悩しながら化学療法を継続しているがん患者・家族のケアプログラム(案)作成の試み
~ニューマン理論の健康理論を用いて~

発表者 井本 俊子さん他4名(公立学校共済組合 関東中央病院)
ファシリテーター 三次 真理さん(武蔵野大学看護学部)

 井本さんをはじめとするメンバー5名は、NPO法人事業の一つであるプラクシス研究学習コースに参加しているチームであり、現在までの取り組みの報告でした。関東中央病院は一般急性期を担う総合病院である。在院日数が短縮する中、看護師らは、化学療法の継続により、苦悩を抱える患者に対してどのようにケアしたらよいかわからないというジレンマを抱えていました。そこでこの現状をなんとかしたいという思いから、Newman理論に基づくケアを組み込むことを考えたということでした。今回は、「苦悩しながら化学療法を継続しているがん患者とその家族とともに、ニューマン理論に導かれた対話を核としたケアリングパートナーシップのケアを実施し、それをもとに他の患者・家族にも活用可能なケアプログラム(案)」を作成することを目指していました。2名の患者の結果をデータとして、話題提供していただきました。ケアプログラム(案)は、参加者との対話の逐語録、研究者のフィールドノート、カンファレンスなどから、患者が辿った4つのプロセス、そしてそれぞれのプロセスにおける「患者の状況」と「看護師に必要な判断」で構成されていました。今後チームで実践を重ねながら、洗練していくとのことでした。
 フロアからの「ケアプログラム(案)は病棟で使うのか、外来で使うのか」などの実践的な質問をきっかけに、さらに対話が進みました。「生活のしやすさ質問表」を使って身体に関わりながら信頼関係を構築することで、パートナーシップのケアにつながるのではないか、という話も出ました。また。人はもとのパターンに戻りがちであるため、フィードバックが必要であることも再認識されました。これからの成果を期待したい内容でした。

理事長スピーチ「Martha E. Rogers の看護の概念モデルの概要」-概要

遠藤惠美子(理事長)

 Martha E. Rogersの看護の概念モデルは、「Science of unitary human beings」であり、日本語では「統一体としての人間の科学」と訳されています。Rogersは、看護学に始めて全体論を導入した方です。この Rogersの大きな傘ともいえるモデルのもとに生まれた理論がMargaret Newmanの「拡張する意識としての健康の理論」とRosemarie Rizzo Parseの「人間生成の理論」です。
 遠藤先生は、看護理論には理論家の生い立ちや生き様が開示しているという理由で、Rogers博士の生い立ちから紹介がありました。Rogers博士は非常に本好きの子どもであり、小学校に入学するときには4年生に飛び級したそうです。Rogers博士の最初の看護書のカバーは紫色であり、「パープル・ブック」と呼ばれ、パープルはロジャリアン・カラーになっているそうです。パープル・ブックの裏表紙には、太古の昔から現在の看護師に続くらせんの絵があり、「戻らない。進むだけ」を意味する特徴的な絵が描かれていました。この裏表紙の絵はとても印象的で忘れられない、そして後戻りしないという点で勇気付けられた絵でした。この本とは別に、Rogers博士の写真も紹介され、おしゃれなご様子もうかがえました。
 Rogers博士は、公衆衛生看護学で学士号を取得しているので、健康増進や家族に目が向いているのはこのような背景からであろうということでした。博士号は、理学博士であり、また沢山の名誉博士号をうけています。
 Rogers博士は、「人間、これが看護学の関心ごとである」と唱え、「看護の物語は、人々へのサービスについての壮大な物語である」と、詩の形で歌われた内容が紹介されました。そして「看護は、人々への献身的な関心が土台」となり、「相手を理解しようとする心と手が必要である」と言っていることも紹介されました。ここまでRogers博士のお話を聞き、看護への熱意を感じ、一度直接お話をうかがってみたかったな、とつくづくと思いました。
 Newman博士は、Rogers博士の全体論に基づく考え方をすべて受け継いでいますが、新しい方向も見出してる、ということが紹介されました。つまり、Rogers博士は「看護は人間の健康の維持・増進に力を尽くす」としていますが、Newman博士は「病気は病気でないことと溶け合い、そこに新しい健康の概念が生まれる。つまり、拡張する意識としての健康である」という考え方を打ち出しました。Rogers博士からNewman博士へ、そして日本では遠藤先生へ、さらに私たちにと、先ほどのらせんを思わずにはいられない時間でした。
 最後に遠藤先生から、「皆様のさらなる進化を」というメッセージをいただき、理事長スピーチは終わりました。

おわりに

 最後に、全体共有の時間を持ちました。参加者からは「質疑応答を通して理論の理解が深まり、自己の看護実践を振り返る機会になった」、「自己のケアパターンに気付くことができた」等の感想や気づきを話してもらい、台風近づく中で行われた対話集会が拍手をもって終了しました。
 大政教育理事より、第3回学習会のアナウンスがありました。ぜひ、ホームページをご確認ください。

文責:清水裕子、坪井香

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